懈い青年、檸檬、そしてディビットさん

先日、本当に何もしたくない日が訪れた。

「やりたいことあるんだけど、なんだかやる気が起きない。」とかではなく、「何もやりたくない。」のだ。

意識だけは高いので、普段空き時間は勉強したり読書したりするのだが、それすらしたくない。「いやいや、何もやりたくないとはいえ、やり出したらスイッチ入るだろう。」そう思って最近買った本を開いてみるのだけれど、文字が目から入って頭の後ろあたりからすり抜けていく。この行為は本当に意味がないと感じたので、やめた。

なんだか眠たくなってきたので、寝てみた。しかし僕は昼寝でも夜寝でも基本的に眠りが浅いというか、割と短時間で目覚めてしまうので、1時間程度しか眠れなかった。

そんなこんなで飯も食わずに夜が来てしまった。外暗〜い。ぽけ〜。って感じでいたが、飯は食わないと筋肉が落ちてしまうので、スーパーに行くことにした。立ち上がるのも億劫だったが、このままだと10年くらいぽけ〜っとしてしまいそうだし、10年間もぽけ〜っとするのは流石に嫌なので、立って超スローな足取りでスーパーへ向かった。

電動カートに乗りたいと思った。まぁ、小さい時から電動カートに乗ってみたい気持ちはあるんだけども。

 

スーパーに到着。今日は何もしたくないから、なんか適当に出来合いのものを買って帰ろうとした僕の目にあるものが飛び込んできた。

レモンである。

なんだかよくわからないが、レモンを買ってみたいという衝動に駆られた。別に食いたいわけでもないが、あの可愛らしいフォルムといい、ビビッドだがどことなく恐ろしい雰囲気を出しているあの色合いといい、バーテン以外で誰が買うねんってポジションだったり...こうやって魅力を挙げようとするとなんだか違うのだが、それらの根幹にあるようなうまく言い表せない魅力に惹かれてしまって、気付いたらカゴに入れていた。

そして帰宅途中、「これ梶井基次郎やん」と恐ろしくなってしまった。

心に得体の知れない不吉な塊を持っている人はレモンを買ってしまうのだろうか。

僕も本を積み上げてレモンをその上に乗せてみたが、特に何も感じない。レモンを買うところまでは一緒だが、用途や感じ方は人それぞれのようだ。みんな違ってみんないい。にんげんっていいな。

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これが買ったレモンだ。いかにもって感じの形をしている。

そして生産者:ディビットさんがめっちゃ気になる。ディビッ"ド"ではないのか。

これをみた時、別の人もいるのか?と思ってガチャガチャを楽しむ感覚で他のレモンをみたが、全員ディビットさんだった。ディビットさんの独占市場が実現されており、なかなか壮観だった。

 

さて、衝動に駆られて購入したので、食べ方とか何にも考えていない。ということで、シンプルにくし切りにして、そのままかじった。

とても酸っぱかった。

だが無心で食べた。食べて食べて、食べまくった。

唾液が止まらない。全身の毛穴からレモン汁が出てきそうな気がする。

それでも食べた。

全部食べた。

食べ終わった後、流れ出る唾液、汗、舌に残る酸味、湧き出るディビットさんへの感謝。

生きている心地がした。

得体の知れない不吉な塊を抱え、何もしたくないと感じて夜までぽけ〜っとしていた僕が、ディビットさんのレモンに救われた。

 

ありがとうディビットさん。